かつて、高価なリコーダーを贈られてから、特にリコーダーびいきとなった筆者は、長年に亘り、23枚に及ぶ、Michaela Petri (ミケーラ ペトゥリ)や、 Marion Verbruggen(マリオン フェルブルッヘン)等による物を含む、前衛ジャズやクラシックの、リコーダーを前面に押し出したディスクを手に入れてきたが、その類のものは見つけるのには、なかなかに骨が折れ、筆者がいかにその購入にいれ込んでいるかがお解かりいただけると思う。AUSIAでは、一噌幸弘が、その筆者でさえ、かつて聴いたことのないような、強いて言えばイアン・アンダーソンの'over-blowing' (吹きすぎ...)に類した音質とスタイルで演奏する。結果としてこのバンドの音の温かさは想像に反して一般的に木管楽器を通して得られる物では無いと言うことだ。楽曲における、音の温か味は、ギターとヴァイオリンに、その責任が分け与えられている。それは一噌が偉大な技術と情感を持ち合わせないということではない。彼は完璧にこれを持ち得ているのだ。ただ、単純にリコーダーの音自体が持つ、温かさを故意に封じ込め、バンド全体の音を異質なものに変え、このような展開を繰り広げる音楽に出くわすことを、私が想像だにしていなかったということだ。そのことは、かさかさで聴けるヴァイオリンと笛の間のやり取りを聞けば、納得し、信じることができるはずである。もうひとつ印象的なのは一噌の演奏における速さである。リコーダーをまるで、キーボードを駆け抜けるような速さを持つ指さばきで操ってしまう。
特徴的な曲Lost On The Way Home 、もっと聴きたい、ゆっくりとした、情緒的な、大胆な、そして力強い、この曲だけ持ってしてもこの作品に入り込んだ価値があったと思わせる曲。しかし、作品中いいのはこの曲だけではない。全体を通して、個人的には壷井彰久と鬼怒無月のデュオほどは好みでないにしても、足立兄弟より好ましく、正しく使われたお金というべき境地に至っている。